1 近畿の歴史的地域、全体の底上げを目指して

 歴史街道推進協議会のような組織では「地域だけ」「行政だけ」「民間だけ」でもできる事業ではなく、その事業内容をできるだけ「広域連携・官民連携なしには実現できないもの」(スケールメリット型・役割分担型・ノウハウ交流促進型)に特化させていく必要があります。
 また、近畿は広域に及び、またエリアごとの特質がありますから、当初から「オール近畿」で取り組める内容には現実的には限りがあります。
 過去に実施されてきた事業も当然のことながら「(もともと)オール近畿を対象としたもの」と「主にメインルートや特定エリアのみで実施されてきたもの」の2つに分類できます。
 従って、近畿の歴史的地域全体の底上げを図ることの基本戦略は、
①オール近畿を対象とした事業(例:歴史街道モデル事業)についてはできるだけその継続を図り、
②メインルートや特定エリアで実施されてきた事業(例:歴史街道iセンター、紀伊半島交流会議)についてはその事業ノウハウをできるものから近畿全域に転用して行く
③事業内容は「広域連携・官民連携組織にしかできないもの」に特化させていく
ということに尽きます。
 ②を少し補足すれば、メインルートなどでの既存ノウハウを再活用していくことに加え、各エリアで継続的に何らかの新しいノウハウが獲得されていけば、それらをあるタイミングで他のエリアに転用、再活用していくことが可能になります。
 そうした作業を継続することの中で、事業ノウハウができるだけ近畿全体に行きわたっていくような方向性を目指していく必要があります。

(1)事業ノウハウの継承・活用

①歴史街道モデル事業

 近畿全域を対象に実施されてきた事業の代表例は「歴史街道モデル事業」です。対象となった地域ごとに、国・府県・市町村・民間事業者(まちづくり組織・商店街・交通機関など)が集い、地域ならではの「歴史(まちづくり)テーマ」を定めるとともに、役割を分担して「特徴ある歴史的地域づくり」を進めるというもので、新しい歴史的地域づくりの事業ノウハウを積極的に開発していくことも含め、その後の国の制度づくりなどにも一定の貢献をしました。

(宇治 市町村テーマ=源氏物語のまち を活かした遊歩道、フォトポイント、ミュージアムなどの整備)

 しかし、この分野ではまだ事業実施中の地域が数多く残っています。協議会はその旗を降ろすことなく、各地域での計画実現を支援し続けるとともに、ここで培われた事業ノウハウをできるだけ近畿全体での共有財産化に取り組む必要があります。

(左:市街地再開発時に歴史的雰囲気を再現 彦根)(右:遺跡保全の観点から歩道を通常より高くし、無電柱化を実現 飛鳥)

(左:歴史街道iセンター 斑鳩)(右:乙訓八幡地区での旧街道整備。電柱は特産品の竹をモチーフに美装化)

②観光案内所のネットワーク

 メインルートにおける事業ノウハウをオール近畿に展開した例に、六期から七期にかけての観光案内ネットワークの形成があります。
 従来は「歴史街道iセンター」としてメインルート中心に実施されてきた事業を簡素化し、2009年に北近畿を加えた60箇所のネットワーク形成、また北近畿・琵琶湖パンフレットの制作をおこないました。翌年には紀伊山地を加えた100箇所のネットワークが完成。各地域の観光情報をファイリングし閲覧できる仕組みもできました。

 七期初年度には各所にラックを設置、紀伊山地パンフの制作とあわせ南・北・中央3種類の設置体制ができ、2年目(2013)には「循環高速道」開通にあわせ北近畿パンフレットを大幅改訂。最終年度(2014)には京阪神での宿泊施設ネットワーク、紀伊山地における県別情報の相互設置などにも取り組みました。近畿のどこにいても最低限の広域情報が入手できる仕組みに加え、100の場所に「歴史街道」の名前が入ったラックが立ち、間接的とはいえ日常的に100名以上の各施設スタッフが「歴史街道」がおこなう情報発信に関わって下さる仕組みづくりには、近畿の歴史的地域全体の底上げを標榜する協議会としての大きな意義があります。
 しかし、昨今ではITの普及により、観光案内所に他地域の情報がないという不便さや、それらをネットワーク「しなければいけない」意義は次第に減少してきています。観光案内所間での新たな共同事業展開の可能性を模索しつつ、事業充実については七期までで一段落し、継続事業へと移行していくことが現実的と考えられます。

○歴史街道iセンター(36箇所)

 おかげ横丁総合案内 宇治山田駅構内観光案内所 道の駅“宇陀路 室生” 道の駅“宇陀路 大宇陀” 桜井観光案内所 天理市トレイルセンター 国営飛鳥歴史公園館 橿原観光物産センター かしはらナビプラザ 法隆寺iセンター 奈良市観光センター クラブツーリズム奈良旅行センター 宇治市観光センター 京都文化博物館古典の日記念・京都市平安京創生館 松花堂美術館iセンター 大山崎ふるさとセンター島本町立歴史文化資料館 高槻市立今城塚古代歴史館 南海インフォメーションセンター(難波) 藤井寺まちかど情報館・ゆめぷらざ 河内長野市観光案内所 道の駅いながわ 宝塚ソリオホール 神戸市北野観光案内所 甲賀市信楽伝統産業会館 与謝野町観光案内所(旧加悦町役場) 福知山観光案内所 福知山大江町地域観光案内ステーション 姫路観光なびポート 本竜野駅前観光案内所 道の駅“吉野路大淀iセンター” 道の駅“なち” 茨木市立文化財資料館 和歌山市観光案内所 天理市観光物産センター

○観光案内所ネットワーク(北近畿:34箇所)

 京丹後市観光協会丹後町支部 アミティ丹後 琴引浜鳴き砂文化館 豪商稲葉本家 道の駅てんきてんき丹後 道の駅丹後あじわいの郷 くみはまSANKAIKAN 宇川温泉「よし野の里」 向井酒造株式会社 与謝野町観光協会 道の駅「シルクのまち」 与謝野町立古墳公園 旧尾藤家住宅 ドライブインはしだて 但馬國出石観光協会 城崎温泉観光協会 豊岡観光協会 豊岡市立コウノトリ文化館 和田山町観光協会 わだやま観光案内所 山城の郷 生野町観光協会 朝来市観光情報センター 生野まちづくり工房井筒屋 史跡生野銀山 道の駅フレッシュあさご 道の駅但馬のまほろば 朝来市埋蔵文化財センター 日本の鬼交流博物館 福知山城(郷土資料館・産業館) 天寧寺 福知山市総務部大江支所 道の駅農匠の郷やくの

○観光案内所ネットワーク(南大阪~紀伊半島:34箇所)

 アイセルシュラホール 桜井観光案内所 道の駅・吉野路大淀iセンター 吉野路観光案内処 野迫川村総合案内所 天川村役場 天川村総合案内所 大峯山洞川温泉観光案内所 道の駅十津川郷・十津川路七色(観光案内所) 飛鳥総合案内所・飛鳥びとの館 明日香村観光会館 吉野山ビジターセンター 高野町観光情報センター 高野山観光協会・中央案内所 高野山観光協会・中の橋案内所 高野山観光協会・一の橋案内所 南紀田辺観光案内センター 中辺路町観光協会 熊野古道館世界遺産熊野本宮館 大塔観光協会 観光案内所「カモン館」 龍神観光協会・観光案内所紀伊勝浦駅前観光案内所 那智駅交流センター 新宮市観光協会 南海和歌山市駅観光案内所わかちかサービスセンター 加太観光協会 三重県立熊野古道センター 堺東観光案内所 堺駅観光案内所・南海電鉄堺駅1階 堺駅観光案内所・南海電鉄堺駅2階西口 大仙公園観光案内所 岸和田だんじり会館 LICはびきの 河内長野市観光案内所 南海インフォメーションセンター(難波) 藤井寺まちかど情報館ゆめぷらざ

③メインルートの事業ノウハウを近畿全域に

 以外にも、メインルートを中心に培ってきた官民・広域連携事業のノウハウには様々なものがあります。
 歴史街道モデル事業(次頁表黒〇)や歴史街道iセンターについてはすでに述べましたが、例えば市町村共同事業として実施してきたものにスタンプラリーがあります。企画としては平凡ですが、それぞれの地域ごとにまず訪れて欲しい場所を示し、周辺にはそれぞれ「半日コース」が設定されている点に特徴があり(下表白〇)。これまでの延べ参加者は150万人ほどと試算(景品応募者×10×年数)できます。語り部組織の連携による定点案内なども長く続けられています(下表△)。

 以外にもにも、阪神間や西国街道沿道などでは博物館・美術館の連携事業が進めらるなどしてきました。また、関西国際空港開港時にJRや各私鉄に呼びかけ、実施したものに各駅での「Welcome表示」。休止状態となっているものにも「町家を活用した店舗」や「外国人割引店舗」のネットワークなどがあります。
 これらの事業を近畿全域で展開していくためには外部資金の獲得などが不可欠の要素にはなりますが、例えばITを活用したラリー、語り部・博物館・駅など共通組織間での新たな共同事業を近畿全体、もしくはあるエリア内での地域共同事業として考えていけるも知れません。

④着地型観光(DMC)の推進

 近畿をより魅力的にするための新しいキーワードの1つに着地型観光の振興があります。
 近畿の各地にとってこの言葉がとりわけ魅力的な理由は、近畿ではまだ京阪神や突出した資源を持つ地域(例:奈良)、京阪神からの訪問地(例:白浜)、あるいは相当な観光まちづくりに取り組んできた地域(例:長浜)以外には、いわゆる観光経済があまり成立していないからです。多くの地域にはもっと注目されて然るべき歴史資源などがあり、近年はほとんどの地域が交流人口の拡大に熱心に取り組んでいるにもかかわらず、旅行商品化されることは稀。しかもお金が落ちそうな所には旧くから大手企業が参入済、というのも他にはない近畿の特徴です。

 一方、訪問者や協議会から見れば、事務局だけで地域魅力を発掘し、全ての事業を実現することには、クオリティやマンパワーの面で自ずと限界があります。その意味ではメニューづくりを事務局がにわか勉強で行うのではなく、地域自らが自らの魅力に気づき情報発信や集客をおこなうといった分野を開拓し、できる所から「地域主導」に変えていくことが理想的です。
 こうした形で各地のニーズに応えつつ、歴史街道を意識した活動をおこなってもらうため、七期では「着地型観光と関西の地域づくりの未来」シンポジウム(日観振、観光まちづくりプラットフォーム推進機構共催:地域リーダー200名参加)を開催し、それをきっかけにして2013年にはNPO北近畿みらいとの実験(年間15程度のメニューを地元が準備し協議会が集客協力)を開始。これらが⑤で述べる南北人材のネットワーク形成につながって行きました。
 八期でも観光まちづくりプラットフォーム推進機構ほかと連携し段階を踏みながら、こうした路線を充実させて行きたいと考えます。

⑤地域リーダーのネットワーク形成

 協議会は文字どうり、どう「歴史街道」計画を関係者皆で実現・推進して行くかについて「協議」する場です。「発足趣意書」にも「各界の叡智を結集し」「個別プロジェクト具体化の指針を明確にして」「各種の共同事業を推進するとともに」「その実現のために必要となる制度改革や整備事業等について提案する」ために歴史街道推進協議会を設立する、とあります。
 協議会事務局の主たる役割はこうした「協議の場」を広く日常的に確保しながら、できるだけ多くの関係者からの知恵やアイデアを集め、それを関係者・外部者の協力を得て形にしていくことです。
 この面では七期において、幹事会等協議会組織の役割分担が明確化されるとともに、12年前に結成された「紀伊半島交流会議」をモチーフとして、「北近畿・琵琶湖」「京都・奈良・飛鳥」「西国街道」にそれぞれ、地域リーダーや行政関係者のからなる連携チームが立ち上がりました。
 メインルート以外の2チーム(北近畿・琵琶湖65名、紀伊山地60名)については現時点ではメーリングリストを通しての意見・情報・アイデア交換が中心ですが、これら南北のエリアはそもそも地域相互の交通に恵まれず、各地にヤル気のある方々がおられ、素晴らしい活動をされていたとしても、府県境を越えそれらを繋ぐ存在がありませんでした。
 南北近畿の振興という面で、これまでなかなか集まれなかった120名の実践者が、日常的に交流できるインフラができたことには、極めて大きな意義があります。
 こうしたことの意義は「歴史街道計画に数多くのブレーンができた」ということに留まりません。この点で、第八期において取り組みたいテーマは4つです。
 第一には当然のことながら、多くのブレーンの知恵を集めつつ、協議会ならではの貢献分野を極めていくこと。第二には、A地区とB地区、C地区とD社・Eさん、F社とG社・Hさん、IさんとJさん・・・・らがともにWINWINとなる事業分野が次々と発見されていくための、よき媒介役となること。そして第三に、観光面では「持続可能なパイの拡大(あるいはパイの減少抑止)のためにどうしていくか」をともに考えていくこと。最後に、ネットワークのさらなる充実、例えば各地域においてやや縦割り状態となっている国プロジェクト関係者(観光圏、風景街道、道の駅など)との連携に取り組んで行くことです。

2 「北近畿・琵琶湖」「紀伊山地」「中央部」に3分割した近畿ビジョンの定着
3 日本の発展をリードする組織に
全国街道交流会議 若狭路大会の扉へ