23 神戸

文:鶴田純也(放送作家)
1996年11月号掲載


 シティー・ループは六年前に神戸の新しい名物として誕生した市内巡回バスだ。車体のグリーンは神戸市のシンボルカラー。窓を広く取ったシャープな外観だが、乗り降りする扉は観音開き。内装には木や真鍮が使われるなど、レトロな雰囲気を醸し出している。スマートでレトロ、この感じが神戸の街に実によくマッチしている。
 料金は大人二五〇円。一日券六五〇円ナリを買うと乗り降り自由だから、窓から見た風景に心魅かれたら近くの停留所で降りて散策をたのしみ、また次のポイントまでバスで移動するといった気ままな利用ができる。これに乗ると主な観光スポットがほぼくまなく廻れる上に、要所要所でその街の成り立ちについて、コンパニオン嬢の分かりやすい説明を聞くことができる。
 そのにこやかな笑顔に迎えられて地下鉄・三宮駅前から乗り込んだ。中心の座席は客が背中合わせになって窓の方を向く形。これだけでも通勤などで利用する普通のバスに乗るのとはまったくちがったウキウキした気分が味わえる。道行く人が「あれがシティー・ループだ」とこっちを指さすのも面映ゆい。
 二つ目の停留所の北野異人館で、もうバスを降りてしまう。居留地の外国人たちが故国をなつかしんで海の見える高台に建てた住まいは、明治から大正にかけての古い建築だけに、多くが震災の被害を受けたが、ほとんどが修復して開館している模様。洒落たブティックやカフェにも客が戻ってにぎわっているのは何よりだ。
 バスを乗り継ぎながら、南京町、ハーバーランドへ。途中、中突堤で時間調整とコンパニオン交替のためしばし停車するが、その間にポートタワーや対岸のハーバーランドをバックに写真を撮る要領のいいカップルがいた。
 私は最後に元町六丁目で降り、山側に向かって歩いた。少し坂を登ると本願寺神戸別院。というよりも地元ではモダン寺と言う方がずっと通じやすい。その名のとおりインド仏教様式を取り入れた教会風の、お寺としては異色のデザインである。東京の築地本願寺よりも早く、昭和五年(一九三〇)に建てられた我が国初の鉄筋大寺院だそうだ。老朽化のため工事をしていたのが平成七年九月に竣工し、震災後初めての新築寺院となった。復興の先駆けとして夜はライトアップされている。
 本堂の祭壇は金箔におおわれ、日本と西洋とインドがミックスされた、何ともエキゾチックでコスモポリタンな世界。神戸という街を象徴するような宗教空間である。
 さらに少し行くと関帝廟がある。華僑たちの心のよりどころともいえる中国寺院である。
 ほかにも、北野には居留地から大正一二年(一九二三)に移築された中山手カトリック教会のゴシック風の建築があるし、昭和一〇年(一九三五)に建てられた日本で最初のイスラムの礼拝堂、神戸回教寺院がある。その北野の地名のもととなった北野天満神社は平清盛が福原遷都の折に京都の北野天神を勧請したのが始まり。夏には神戸在住の外国人もおおぜい参加する北野国際まつりが催されることで有名だ。
 帰りに、トアロードに近い広東料理店「金宝酒家」に寄ってみた。以前の店は震災でつぶれ、仮店舗で営業中だが、外国のチャイナタウンにあるような店構えは元のまま。ヨーロッパのアンティークがいっぱいの店内の片隅には、赤いランプがともって、中国の商売の神様がまつられている。カウンターでシャンソンを聞きながら、中国料理を味わっていると、どこの国を旅しているのか分からなくなってくる。主人のウエスリー氏(チャイニーズ)に久しぶりに会って、震災のお見舞いを言うと、
 「それを言うたら神戸の人はみんな一緒や。そんなことよりあんたのお兄さん、元気にしてる?」
 あらゆる国の文化がミックスされた中から生まれた、このフレンドリーな気質こそが神戸である。