歴史街道を行く <111> 真木嘉裕  
古代史ゾーン

飛鳥物語  謎に包まれた亀石

 飛鳥には、奇妙なフォルムの石造物が多く残っている。
 いつ、誰が、何のためにつくったのか? いまだに謎に包まれている。このミステリアスなところが、古代へのロマンを誘う飛鳥のこよない魅力となっている。
 例えば、川原寺跡の近くにある亀石。長さ三・六b、幅二・一b、高さ一・八bの巨石である。下端に顔のような彫刻がある。一見、亀に似ているところから、亀石と呼ばれている。しかし、見ようによっては、蛙が目をつぶっているようでもある。
 亀か、蛙か、想像と推理をめぐらして、古代の謎にチャレンジするのも愉快である。
 この亀石が何に使われていたのか、これにもいろんな説がある。かつて飛鳥京三大寺の一つとして栄えた川原寺の寺領の境界を示す標石という説、中国でよく見受ける墓石や碑の台石であるという説、飛鳥京の宮殿のある現世のゾーンと陵墓のある冥界との境を画する結界石であるという説、農民が豊作を願ってつくったという説、などなどである。
 さらに、亀石には恐ろしい言い伝えがある。この巨石はもともと東を向いていたが、世の乱れとともに次第に動いて、現在、西南を向いている。これが西を向いたときには、大和一帯が泥海になるというのである。
 すべて、真実のようでもあり、そうでもなさそうである。
 古代人のメッセージを密かに伝える飛鳥の石造物群には亀石のほか、猿石と呼ばれている四体の男、女、猿、法師ともみられる石像、酒の醸造に使ったのではないかという酒船石、鬼が旅人を捕らえて料理をした鬼の俎(まないた)という巨石などがある。 
 むかしからの言い伝えに想いを馳せ、自由に古代へのロマンを描く楽しい歴史探訪の旅は、近鉄飛鳥駅より徒歩または、サイクリングが便利。

1993年5月28日掲載